睡眠障害の治療
「寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」「朝早く目が覚める」。
眠れない日が続くとき(不眠症)の治療を中心に、根拠となる研究とあわせてまとめました。
睡眠障害には、不眠症のほか、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、体内時計がずれる概日リズム睡眠障害などがあります。 このページでは、その中で最も多い不眠症を中心にご紹介します。ほかの睡眠障害が疑われる場合は、診察でその見分けも行います。
不眠症は、眠る時間や環境が十分にあるのに眠れない状態が続き、昼間の生活に影響が出ている状態です。 治療には、生活のリズムや眠りについての考え方を整える認知行動療法(CBT-I)と、睡眠薬があります。 このページでは、日本と海外のガイドラインがそれぞれどう勧めているか、研究でどこまで分かっているかを、文献番号[ ]つきでご紹介します。
睡眠のセルフチェック(受診の目安)
国際的な診断基準の考え方にそって、当院で作成した確認項目です。回答はこの画面の中だけで判定し、どこにも送信・保存されません。
日本と海外のガイドラインの違い
日本の診療ガイドライン[1]は2013年に作られ、睡眠衛生指導と睡眠薬を中心に、効果が不十分なときに認知行動療法を行う流れを示しています(あわせて、薬と並行してできるだけ早くから行うことも勧めています)。 一方、その後に改訂された米国・欧州のガイドライン[2〜5]は、認知行動療法を最初の治療とし、薬はそれで不十分なときに短い期間で使うものとしています。
日本でも2026年度の診療報酬改定で、不眠症に対する認知行動療法と治療用アプリが保険診療の対象になりました[13][14]。
| 項目 | 日本(2013年)[1] | 米国内科学会(2016年)[2] | 米国睡眠学会(2017・2021年)[3][4] | 欧州睡眠学会(2023年)[5] |
|---|---|---|---|---|
| 最初に行う治療 | 睡眠衛生指導と、必要に応じた薬物療法 | すべての成人に認知行動療法(強い推奨) | 多成分の認知行動療法(強い推奨) | 認知行動療法(年齢・併存症を問わず第一選択) |
| 認知行動療法の位置づけ | 薬物療法で効果が不十分なときの選択肢。ただし薬と並行してできるだけ早期から行うことも推奨 | 第一選択 | 第一選択。刺激制御法・睡眠制限法の単独も条件付きで推奨 | 第一選択。対面でもデジタル(アプリ等)でもよい |
| 睡眠衛生指導だけ | 第一段階として位置づけ | ― | 単独では行わないことを提案 | 単独での効果は示されていない |
| 睡眠薬 | 治療の中心。漸減・休薬の方法まで示す | 認知行動療法で不十分なとき、短期間の使用を話し合って決める | 個々の薬について弱い推奨。市販の抗ヒスタミン薬などは推奨しない | 認知行動療法で不十分なときに。多くは4週間以内、オレキシン受容体拮抗薬は3か月程度まで |
各ガイドラインの推奨の要点を当院で要約しました。表は横にスクロールできます。
認知行動療法の効果はどこまで分かっているか
治療の始め方と、半年後の「ほぼ治った」割合
慢性不眠症の成人を対象に、認知行動療法・薬・その両方のどれから治療を始めるかを比べた13件の臨床試験(823人)をまとめた解析[7]です。 約半年後(12〜48週)に不眠症状がほとんどなくなっていた人(寛解)の割合は、薬から始めた場合の平均28%に対し、認知行動療法から始めた場合は41%と推定されました。 両方を同時に始めても、認知行動療法だけの場合と大きな差はありませんでした。解析の確からしさは「高い」と評価されています。
眠りはどのくらい変わるか
対面の認知行動療法を、治療を行わない群などと比べた20件の臨床試験(1,162人)の解析[6]では、睡眠日誌で次の改善がみられ、その後も続く傾向がありました。
| 睡眠日誌の項目 | 治療後の変化(平均) | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| 寝つくまでの時間 | 約19分 短くなった | 14〜24分 |
| 夜中に目が覚めている時間 | 約26分 短くなった | 15〜37分 |
| 睡眠効率(横になっている時間のうち眠れている割合) | 約10ポイント 上がった | 8〜12ポイント |
| 総睡眠時間 | 約8分 長くなった(はっきりした差ではない) | −0.5〜16分 |
眠れる「時間」そのものより、寝つきや夜中の目覚めが減り、眠りがまとまる変化が中心です。
どの方法が効いているのか
認知行動療法にはいくつもの方法が含まれます。241件の臨床試験(31,452人)を方法ごとに分けて調べた解析[8]では、 考え方の見直し(認知再構成)・床にいる時間を整える(睡眠制限法)・寝床を眠る場所に戻す(刺激制御法)などが効果に寄与していました。 一方、睡眠衛生指導は上乗せの効果がはっきりせず、リラクセーションはむしろ効果を下げる可能性が示されました。提供の形では、対面で治療者が行う方法が最も効果的でした。
その他の主な知見
| 分かっていること | 内容 | 文献 |
|---|---|---|
| 病気を合併した不眠症 | うつ病・不安などの精神疾患や、痛み・がんなど身体の病気を合併した不眠症でも、治療後に寛解した人は36.0%(比較群16.9%)。合併している病気の症状も少し改善しました。 | [9] |
| 睡眠薬を減らすとき | 時間をかけて減らす方法に認知行動療法を組み合わせると、3か月以内の中止の成功が約1.7倍に。ただし12か月後でははっきりした差は示されていません。 | [10] |
| スマートフォンのアプリ | 国内の臨床試験(175人)で、8週間後に不眠の程度が「不眠でない」範囲まで改善した人は、治療アプリ群37.9%、見かけだけのアプリ群10.2%。長期の効果や、対面の治療と同じ効果があるかはまだ確かめられていません。 | [12][13] |
研究の多くは海外で行われたもので、対象者や治療の内容は研究ごとに異なります。数値は研究全体の平均的な結果で、個々の方の効果を約束するものではありません。
認知行動療法の対象になる方
欧州のガイドラインでは、年齢や合併する病気を問わず最初の治療とされています[5]。ただし、進め方に注意が必要な方や、先に別の治療が必要な方もいます。
- 寝つけない・途中で目が覚める・早く目が覚める状態が、週3回以上・3か月以上続いている
- 昼間の疲れや集中力の低下など、生活に影響が出ている
- 睡眠薬を使わずに治したい、または減らしていきたい
- うつ病・不安、痛み、がんなどの病気があって眠れない方も、効果が確かめられています [9]
- 車の運転や高い所での作業が多い方(始めの1〜2週は日中に眠気が出やすい)
- 高齢の方(夜間に寝床を出るときの転倒に注意)
- 夜勤・交代勤務の方(一般的な方法をそのまま使えない)
- 妊娠中の方、持病の治療中の方
- 大きないびき・睡眠中の呼吸停止(睡眠時無呼吸症候群の疑い)
- 脚のむずむず感で眠れない
- 双極性障害、てんかん、アルコールの問題など
- 気分の落ち込みが強い、消えてしまいたい気持ちがある
主な副作用は、始めの1〜2週間の日中の眠気や疲れやすさです[13]。どの方法が合うかは診察で判断します。
睡眠薬が必要になるのはどんなとき?
海外のガイドラインでは、次のような場合に、利点と副作用を話し合ったうえで薬を使うとされています[2][5]。
- 認知行動療法を行っても、十分に良くならないとき
- 強いストレスなどで急に眠れなくなり、短い期間の手助けが必要なとき
- 体調や生活の事情で、今は認知行動療法に取り組むのが難しいとき
- うつ病など、ほかの病気の治療とあわせて眠りを整える必要があるとき
薬を使うときも、できるだけ少ない量で、期間を決めて使い、認知行動療法の考え方は続けることが勧められています。 多くの睡眠薬を比べた解析[11]では、効果と副作用のバランスは薬によって大きく異なり、長く使ったときの利点と害についてはまだ十分な情報がないとされています。
| 薬の種類 | 働き | ガイドラインでの位置づけ | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| オレキシン受容体拮抗薬 | 目を覚ましておく脳の働きを弱めて眠りやすくする | 欧州:3か月程度まで(場合によりそれ以上)使用できるとされる [5] | 翌朝への持ち越し、悪夢。併用できない薬がある |
| メラトニン受容体作動薬 | 体内時計に働きかけ、寝つきを助ける | 米国:寝つきの悪さに弱い推奨 [4]。欧州では推奨されていない [5]。多くの睡眠薬を比べた解析でははっきりした効果が示されなかった [11] | 効果は穏やか。併用できない薬がある |
| 非ベンゾジアゼピン系 | 脳の働きを鎮めて眠らせる | 米国:弱い推奨 [4]。欧州:原則4週間以内の短期使用 [5] | ふらつき・転倒、もの忘れ、依存。高齢の方は特に慎重に |
| ベンゾジアゼピン系 | 脳の働きを鎮めて眠らせる | 欧州:原則4週間以内の短期使用 [5]。長く使うと依存が問題になることがある [1] | 依存・離脱症状、転倒、日中の眠気。自己判断で急にやめない |
| 市販の睡眠改善薬(抗ヒスタミン薬) | 眠気の副作用を利用する | 米国・欧州とも不眠症の治療としては推奨していない [4][5] | 続けると効きにくくなることがある。翌日への眠気の持ち越し |
お薬の選び方は、年齢・持病・ほかのお薬・眠れない症状の種類によって変わります。服用中のお薬を自己判断で急にやめたり増やしたりしないでください。
保険で受けられる認知行動療法(2026年度から)
国の制度で対象となる方が決められています[13][14]。どちらも医師の判断が必要です。
下の2つの方法は、当院では現在開始に向けて準備中です。始められるようになりましたら、このページとお知らせでご案内します。それまでの間も、外来の診察の中で睡眠日誌と眠りのスケジュールづくりは行っています。
| 方法 | 対象となる方 | 内容 |
|---|---|---|
| 医師との面接による認知行動療法 | うつ病や不安障害を合併している不眠症、または睡眠薬を2種類以上使っても効果が不十分な不眠症 | 1回30分以上の面接を、一連の治療で8回まで |
| 治療用アプリ(スマートフォン) | 睡眠薬を使っていない、軽症〜中等症の成人の不眠症で、薬による治療が合わない・希望しない方(精神疾患、中等度以上の身体の病気、他の睡眠障害、夜勤・交代勤務の方は対象外) | 7日間の睡眠日誌のあと、9週間アプリに取り組み、定期的に受診 |
当院での進め方
よくある質問
参考文献
- [1]厚生労働科学研究班・日本睡眠学会ワーキンググループ編. 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン―出口を見据えた不眠医療マニュアル―. 2013年6月(同年10月改訂). PDF(日本睡眠学会)
- [2]Qaseem A, et al. Management of Chronic Insomnia Disorder in Adults: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians. Ann Intern Med. 2016;165(2):125-133. doi:10.7326/M15-2175 / PubMed 27136449
- [3]Edinger JD, et al. Behavioral and psychological treatments for chronic insomnia disorder in adults: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. J Clin Sleep Med. 2021;17(2):255-262. doi:10.5664/jcsm.8986 / PubMed 33164742
- [4]Sateia MJ, et al. Clinical Practice Guideline for the Pharmacologic Treatment of Chronic Insomnia in Adults: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline. J Clin Sleep Med. 2017;13(2):307-349. doi:10.5664/jcsm.6470 / PubMed 27998379
- [5]Riemann D, et al. The European Insomnia Guideline: An update on the diagnosis and treatment of insomnia 2023. J Sleep Res. 2023;32(6):e14035. doi:10.1111/jsr.14035 / PubMed 38016484
- [6]Trauer JM, et al. Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med. 2015;163(3):191-204. doi:10.7326/M14-2841 / PubMed 26054060
- [7]Furukawa Y, et al. Initial treatment choices for long-term remission of chronic insomnia disorder in adults: a systematic review and network meta-analysis. Psychiatry Clin Neurosci. 2024;78(11):646-653. doi:10.1111/pcn.13730 / PubMed 39188094
- [8]Furukawa Y, et al. Components and Delivery Formats of Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia in Adults: A Systematic Review and Component Network Meta-Analysis. JAMA Psychiatry. 2024;81(4):357-365. doi:10.1001/jamapsychiatry.2023.5060 / PubMed 38231522
- [9]Wu JQ, et al. Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia Comorbid With Psychiatric and Medical Conditions: A Meta-analysis. JAMA Intern Med. 2015;175(9):1461-1472. doi:10.1001/jamainternmed.2015.3006 / PubMed 26147487
- [10]Takaesu Y, et al. Psychosocial intervention for discontinuing benzodiazepine hypnotics in patients with chronic insomnia: A systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev. 2019;48:101214. doi:10.1016/j.smrv.2019.101214 / PubMed 31648145
- [11]De Crescenzo F, et al. Comparative effects of pharmacological interventions for the acute and long-term management of insomnia disorder in adults: a systematic review and network meta-analysis. Lancet. 2022;400(10347):170-184. doi:10.1016/S0140-6736(22)00878-9 / PubMed 35843245
- [12]Watanabe Y, et al. Effect of smartphone-based cognitive behavioral therapy app on insomnia: a randomized, double-blind study. Sleep. 2023;46(3):zsac270. doi:10.1093/sleep/zsac270 / PubMed 36355920
- [13]日本睡眠学会ほか. 不眠障害用アプリ 適正使用指針(第3版). 2026年5月. PDF(日本睡眠学会)
- [14]厚生労働省. 令和8年度診療報酬改定(I003-2 認知療法・認知行動療法)および 保医発0529第2号(令和8年5月29日). 通知PDF(厚生労働省)
内容の確認日:2026年9月25日。新しい研究やガイドラインの改訂にあわせて見直します。このページは一般的な情報で、個別の診断・治療に代わるものではありません。